洗濯機がついに寿命を迎えた。
水がちょろちょろとしか出ず、
いっこうに働く気配がない。
まるで私のようだ。
調べてみたら、部品の劣化が原因らしい。
修理を頼むか悩んだが、かれこれ10年も使っているのだから
妥当な買い替え時期である。
説明書を引っ張り出し
延命治療を試みるもうまくいかず。
私はもうこれ以上働きたくないんです。
休ませてください。
会社員がいやでいやで働くことから逃げてきた私には
この洗濯機の声を無視することはできなかった。
脱水だけはかろうじて機能していたので
仕方なく手洗いした洗濯物たちを放り込み、脱水のみのコースでスタート。
もうちょっとだけ働いてください。
すみません。
退職を希望する社員に
あと1ヶ月だけ…!
と粘るブラック企業の上司のようだ。
転職を繰り返し、常に下っ端のポジショニングだった私は
粘られる側しか経験したことがないけど。
これだけ長いこと使っていると
無機質な家電製品にも愛着が湧いてくる。
名前をつけたりするほど気にかけていたわけではないけれど
いざ新しいものと交換するとなると若干寂しい。
この洗濯機は、私が就職して新居に移り住んだ時に揃えた家電のひとつ。
新しい世界への希望に満ちていたキラキラの瞳から、
死んだ魚のような目になる私の様子を
リアルタイムで見守ってくれた洗濯機だ。
社会人1年目から今のフリーランスに落ち着くまでちょうど10年。
10年もの時を共に過ごしたと思うと色々と感慨深い。
社会人になり、本格的に大人の世界へと踏み入って
複雑な人間関係や、好きな気持ちだけではやっていけない
仕事の辛さを知ったのが10年前。
夢や希望を持って社会に飛び出したものの
良くも悪くも色々なことを経験し、
振り返るとすっかり薄汚れてしまったことに気が付く。
朝起きて支度して会社に行って仕事して帰ってきてまた朝を迎える、
という日々の繰り返し。
目が覚めたらあとは全自動。
毎日同じ作業をぐるぐるとこなすだけ。
環境を変えれば何か変わるかも、ともがいてみるも、
どこに行っても心が折れるターニングポイントは必ずやってくるもので、
もう無駄に期待するのはやめようって
私も家電製品のようにどんどん省エネになっていった。
安全のためにロックしているフタを無理やり
こじ開けようとしてくる不届きものにも遭遇して
世の中には本当に色んな人がいるなとうんざりすることもあった。
チャイルドロックならぬメンタルロックなんだよ!
優しく扱わないと壊れるでしょうが!
こんなことばかりが続いて
どれだけ洗っても完全には綺麗にならないシミが
ポツポツと増えていった。
過去の経験が今の自分を作り上げている、という考え方を
積極的に採用するようにしているのだけど、
ふとした瞬間に思い出しては「あの時抜け出せて本当によかった…」と
冷や汗を拭いている。
シミといえば最近目の下あたりに
茶色いエリアが発生している。
紫外線を意識し始めたのは割と最近。
サボっていた時期のツケが今お肌に現れている。
これからシワも増えて
衰えをさらに感じるようになるのかと思うとおそろしい。
まさに過去の経験が今の自分を作っている…。
しかし30年以上も生きていたらそれくらいの汚れは普通か。
むしろまっさらな状態を保つほうが難しい。
食べ物もちょっと腐ってるくらいが美味しいっていうし、
これも熟成。
いい味出してる、ということにしよう。
そんな半端な熟成をしている私も今やフリーランス。
結婚もしたし、ライフスタイルもガラリと変わっている。
会社員時代をなかったことにしたいとまでは言わないけど
あの時のブラックルーティーンをぶち壊せたことは
自分でも自分を褒めたい。
心身ともに壊れるまで働いてしまったことは猛省だけど。
しかし我が社はホワイトですので。
私が経験してきた会社とは違うので。
完全に壊れてしまう前に対応しますよ。
10年のお勤め、大変ご苦労様でした。
ブラック時代を共に生き抜いたこと、忘れません。
洗濯機へのお別れの手紙みたいになってしまった。
ところでコインランドリーって人気なんですね。
今まで利用したことあったけ?
くらいの距離感なのだけど、
夫と近所のコインランドリーへ行ったら
平日の夜なのに思ったよりも人が出入りしててびっくり。
すぐ横にファミマが併設されていて、
時間を持て余した私たちは吸い込まれるように入店。
晩御飯はしっかり食べたはずなのに
コンビニ限定のフレーバーに購買意欲を掻き立てられ
スナック菓子を選び始める。
レジ横のホットスナックトラップにもまんまと引っかかり、
ほくほく顔でコンビニを後にした。
車でポケポケをしながら洗濯が終わるまで暇を潰す。
じゃかりこののり塩ごま油めちゃくちゃ美味しかった。
洗濯で500円、コンビニで450円。
1回のコインランドリーで1,000円弱も使ってたら破産する。
いかんいかん。
冬のボーナスがはいったら家電量販店に行ってみるか〜
くらいのゆっくりとした気持ちだったけど
悠長なことは言っていられないと
ファミチキから溢れ出る油で口周りをべとべとにしながら思った。