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エッセイ

「お先にどうぞ」が難しい世の中で

2026.11.3

先日、自宅マンションのエレベーターで、ちょっと嬉しい出来事があった。

 

我が家は10階にあるので、エレベーターが降りてくるまでに時間がかかることがある。そのため、先にエレベーターのボタンを押してから、待ち時間にポストを確認するのが習慣だ。

 

その日もいつものようにボタンを押そうとしたら、

すでにエレベーターは1階に到着していた。

荷物が届いていたので、先に宅配ボックスに寄ることに。

 

すると、エレベーターに向かう住民の方とすれ違った。

ああ、これは先に行っちゃうな。

 

そう思いながら荷物を取り出してエレベーターに戻ると、なんとその方が「開く」ボタンを押して待っていてくれたのだ。

 

え!ありがとうございます!

慌ててお礼を言い、そそくさと乗り込む。

 

なんて素敵な人なんだろう。

どうせ先に行くだろうと、のんびり荷物を取り出していた自分を殴りたい。

 

このご時世、エレベーターで誰かと乗り合わせることに、少し不安を感じる人もいると思う。

私もマンションのエレベーターでは、なるべく相乗りを避けるようにしている。

 

誰かが乗り込むのを見かけたら、わざとポストに寄って時間をずらしたり。

おそらく他の人も似たような感覚なのか、「先に行ってください」というオーラを放っている人が多い気がする。

 

とはいえ、我が家は10階。

私が10階まで乗っている間、ほかの住民の方を長く待たせてしまうことを考えると、なんだか申し訳ない気持ちになる。

 

なので、同じタイミングなら一緒に乗ってもらった方がいいのかな、とも思う。

でも、わざわざ「開く」ボタンを押して待つのも相手に気を遣わせるし、そもそも一緒に乗りたくないかもしれない。

こういうのって、本当に難しい。

 

以前、男性の住民の方と二人でエレベーターを待っていたときのこと。

私が先に乗り込むと、その方が「先にどうぞ」と声をかけてくれた。

なんて紳士的な……!

 

さすがに申し訳なくて「よかったらどうぞ」と声をかけ、一緒に乗ってもらったのだけど、こういうさりげない配慮ができる人って素敵だなと思う。

 

誰かと乗り合わせるのを避けるのも気遣いだし、

扉を開けて待っていてくれるのも気遣い。

同じ「相手を思いやる」という気持ちから生まれた行動なのに、

正反対になることがある。

 

相手がどう感じるかは、その人にしかわからない。

だからこそ難しいし、こうして思いがけない優しさに触れると、なんだか嬉しくなる。

 

人間同士だけでなく、ペットを連れている方ともよくこういう場面になる。

特に大きなワンちゃん。

 

抱っこできるサイズではないので、飼い主さんはワンちゃんを足の間に挟んだり、しゃがんで口元を押さえたり。

絶対に迷惑をかけまいという、飼い主さんの必死さが伝わってくる。

 

でも、こちらとしては可愛いワンコと同じ空間にいられて幸せなので、そんなに申し訳なさそうにしなくてもいいのになあ、と思う。

 

ところで、エレベーターのボタンを押すとき、どうしてもエレベーター側の気持ちになってしまう。

例えば、自分が10階にいて、下に降りたいとき。

 

エレベーターには上がってきてほしいので、つい「上」のボタンを押してしまうのだ。

この話を夫にしたら「なんで?!」とめちゃくちゃ笑われた。

いや、だって上に来てほしいじゃないですか。

 

実際にこの勘違いのせいで、行きたい方向とは逆に運ばれたこともある。

うっかり「上」を押してしまい、間違いに気づいて慌てて「下」も押した。

 

やってきたエレベーターには、すでに人が乗っていた。

何も考えずに乗り込むと、扉が閉まるなりエレベーターは上昇。

 

あれ、上行っちゃう。

 

仕方なくそのまま上まで付き合い、ようやく下り始める。

もちろん同乗した人は別に何とも思っていないだろうけど、私がひとりで勝手に恥ずかしくなってしまった。

 

この気持ち、誰かわかってくれませんか……。

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