私は今、とあるお店のキッチンスタッフとしてパートタイムで働いています。
主な仕事内容は、オーダーされたメニューを調理して提供すること。
日頃から料理をしていれば問題なくこなせるレシピばかりなので、今のところ大変なことはない。
実際にスタッフとして働く前に研修があるのですが、先日担当するメニューについて実技チェックがありました。
調理手順は事前に動画で学習済み。
30代ともなれば社会経験はそこそこ豊富なわけで、教えられたことは忘れないようにメモするクセも健在です。
上司に何度も同じ質問をしないことは社会人の鉄則。
レシピのメモはもちろんキッチリ取ってある。
さあ、見せつけてやろうではないですか。私の料理スキルを。
料理はもともと好きなので難なくクリア。メモを見ながらの作業ではあったけど、我ながらスムーズな手際だったと思います。
店長からも「手順は完璧!あとは数をこなして慣れていけばOKですね。」と太鼓判をもらい、無事に実技チェックの第一段階が終了。
作った料理は全部で10品。なかなかの量である。
そして私が飲食で働く上で密かに期待しているのが、そう、 “MAKANAI”。
もしかしたら作った料理を食べて帰れるかも、という私の浅ましい心を読むかのように、気の利く店長は
「お腹空いたでしょう!食べて帰ってくださいね〜」
と料理をテーブルに並べてくれた。
まじGOD。
このお店が千客万来に至るべく尽力することを誓います。
そう心の中で宣誓しながら料理にパクつく。
焼きおにぎり、キノコのビビンバ、お味噌汁、だし巻き卵、ミートパスタ、ナスの西京焼き、キノコのアヒージョ、バゲット6枚。
普段の食事量からは考えられないラインナップ。
「食べられなかったら残して大丈夫ですよ。」とは言ってくださったが、私は出された食べ物を残すことに罪悪感を覚える性分。
研修が終わったのは午後3時。お昼を食べていなかったのでお腹はペコペコだったし、苦手だと伝えていたムール貝の酒蒸しと、塩辛の乗ったじゃがバターは運ばれていなかったので、全部食べ切れる、と判断。
お店のメニュー通りに調理しただけとはいえ、どれも美味しい。
若干炭水化物が多い気もするけど、多分気のせい。
ほんの何粒か飾りで添えてあったikuraも、実は得意ではないのだけど丸呑みして夜に駆け出していきました。
順調に食べ進めてあとはパスタだけ、というところで急に箸が止まった。
満腹中枢がブドウ糖の上昇を感知するには20分かかると言われていますが、どうやら食べ始めてからその20分が経過したらしい。
店長に感謝し誓いを立てたことは遠い記憶の彼方。
ブラックホールだと信じていた胃袋も悲鳴をあげています。
無心でパスタの麺を口に運ぶものの、あとほんの一口が入らない。
ちなみにお店は午後3時から開店で、私がまかないを食べている間に2組のお客様が来店していました。
半個室なので詳細な様子はわからないと思うけど、
従業員がえらいメニュー数を食べてて不審に思われない?
私ものすごい食いしん坊に見えてない?と大人気なく羞恥心を感じて一刻も早く食べ終えて帰りたかった。
あと少しで完食できるところまで来ているのに、もう1本も1センチも麺を喉に通すことができない。
無念。
西京焼きに使われていたアルミホイルにパスタを包んで証拠隠滅。
せめて残した事実を知られたくなかった。
料理を作る身として、食べ残しを発見することほど悲しいことはないと知っているんですよね。
食べ放題メニューもあるお店だから食べ残しなんて慣れているだろうし、研修中に切った素材の端を生ゴミとして捨てているのも目撃したから、多分気にしないとは思うんだけれど。
これは私の勝手な配慮。
ごちそうさまでした〜とお皿を下げに行き、ここでさりげなく例の証拠をゴミ箱へ。ミッションコンプリート。完璧で嘘つきな私は天才的なアイドル様。
そして「全部食べました〜美味しかったです〜」と、今にも食べた物たちがカムバックしそうな口を押さえてそそくさと退勤。
いざとなったらイリュージョンと称してパスタ麺をぴろぴろと口から出してみせるしかないと思っていましたが、なんとか留まってくれてよかった。
中国では出された食べ物を少し残すことで「お腹いっぱいです。満足しました。」という感謝の気持ちを表すのだそうです。
マナーや気遣いは、国それぞれ、人それぞれですね。
久しぶりに炭水化物を爆食いしたせいか、帰りの電車で睡魔と戦う羽目に。
というか、食べながらもちょっと寝そうになってたけど。
お腹に大量の消化物をかかえて帰宅した私。
正露丸を飲んでベッドの中で大反省会。
食べ物を残したくない精神は素晴らしいけど、無理やり食べて体を壊すのは作った人の本意ではないはず。
この歳で食べ過ぎに苦しむことになるなんて…。
気をつけよう。
ちなみに第二回目の実技チェックでは1品しか食べて帰らなかった。私は前回の経験を活かせる女。エライ。