原作:はまじあき(芳文社「まんがタイムきららMAX」連載中)
監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成・脚本:吉田恵里香
キャラクターデザイン:けろりら
制作:CloverWorks
2022年10月よりアニメが放送開始。
遅ればせながら一気見しましたので感想などをしたためていきます。
あらすじ
主人公の後藤ひとりは、極度の人見知りで自他共に認める陰キャ少女。中学生時代は孤独な日々をギターと共に過ごし、演奏技術も次第に上達。ネットにアップしている演奏動画もそこそこ人気を集めていて「いつかバンドを組みたい」と夢見るものの、リアルでは高校生になった今でも友達は0人…。
そんな主人公の前に突然ビックチャンスが到来。急遽いなくなったギターの代わりを引き受けてほしい!と頼まれ、半ば強引にバンドメンバーに抜擢。断れない根暗な性格が、良くも悪くもひとりの日常を変えていく。
見どころ
陰キャといっても人によってその程度には差があると思いますが、ひとりのコミュ障はトップクラス。学校行きたくない、働きたくない、人と話すのが苦手、何を考えるにもとにかくネガティブ。特徴だけ聞くとうつになりそうなアニメですが、そんなひとりだからこそ、自分の気持ちや、周りの人とのコミュニケーションをかけがえのないものとして大切に育んでいく様子に、見ていて胸が熱くなっていきます。
バンドメンバー
伊地知虹夏(いじちにじか)
ひとりをバンドに誘ったドラム担当のムードメーカー。前向きで明るく、ネガティブなひとりを励ましてくれる存在。暴走しがちなメンバーのまとめ役でもあります。誰かの背中を優しく一押しするような台詞が印象的でした。虹夏の放った言葉で何度涙したことか…。
土壇場で逃げ出したギターメンバーに対して「きたちゃんが逃げ出してなかったら、ぼっちちゃんとも会えてなかったんだよ?」と聖母のように包み込みます。しかもあらためてメンバーとして迎え入れてます。学校の先生に向いてそうな包容力。
虹夏は、大きな夢を持ってバンド活動をしています。どんな時でも諦めずにがんばる健気な姿勢は、他のメンバーにも影響を与えていたはず。ギターヒーロー(ひとりのSNS上でのハンドルネーム)について「私たちの見てないところで、たくさんたくさんギターを弾いてきたんだろうなって。」という言葉が出るのも、虹夏自身が同じように努力しているからだと思いました。
そんな虹夏が、自分達の未熟な演奏によって一瞬自信をなくす場面があります。しかし、ひとりの想いの感じる演奏によって元気を取り戻します。そして、ひとりのおかげで無謀に思えていた自分の夢が叶うと確信。ひとりが実はSNSで見ていたギターヒーローだったと気が付き「自分にとってのヒーローに見えた」と話したときは、視聴者の私がまるでひとりになったかのように心打たれました。出会う前も、メンバーになってからも、虹夏にとってひとりはヒーローだったんですね。
ちなみに、アニメのタイトルにもなっている「ぼっち・ざ・ろっく!」は、虹夏がひとりに言った台詞なのです。
山田リョウ(やまだりょう)
虹夏と同じ高校に通うベース担当のクールビューティー。ミステリアスな雰囲気がいかにもバンドマンっぽい。変人として扱われているが、はっきり物を言う性格は、陰キャなひとり、優しい虹夏、いい子な喜多ちゃんというメンバーを考えると、実はバランスをとってくれている存在かも。
ひとりとは真逆で自分に自信があり、純粋に音楽を楽しむことが活動の目的。作曲もできる。他のメンバーと比べてひとりとはコミュニケーションが少ないものの、音楽への熱意の部分で心が通じている節がある。
ひとりのことをおもしろい人認定していたり、変態発言をする喜多ちゃんをうまく転がしていたり、友達が虹夏しかいないと言っている割には偏見なく受け入れています。これは虹夏を含めて、ひとりと喜多ちゃんとなら、自分と一緒に音楽を作れると信じているからなのだと思いました。
ひとりに「ぼっち」と言うあだ名をつけたのはリョウです。普通はつけられたらちょっと嫌なこのネーミングですが、ひとりは喜びます。また、ひとりとリョウは、虹夏がつけたバンド名「結束バンド」をかわいいと気に入っているところから、全体的な感性が似ている気がします。
喜多郁代(きたいくよ)
ひとりと同じ高校に通う同級生。虹夏達のバンドから逃げたギター。後にギターボーカルとして再加入する。人望が厚く人気者で、人と関わるのが好きだと公言しています。SNSに自撮り写真をアップするなど、陽キャオーラを常に放っている今時のきらきら女子高生。
私が完全に喜多ちゃん推しになったのは、最終話で学園祭のステージ演奏後にひとりと話すシーンを見てからです。ひとりが喜多ちゃんのギターが上手くなっていることを褒めたとき、喜多ちゃんは「私は、人を惹きつけられるような演奏はできない」と返すのです。
あんなにみんなから慕われて、友達にも困らないリア充な日常を送っているにも関わらず、バンド活動に対してはもどかしい思いを抱えていました。その後に「でも、みんなに合わせるのは得意みたいだから」と言葉が続きます。りょうやひとりに憧れ意識を持っているのは、楽器演奏の技術だけでなく、自分自身の世界を持っているからなのかなと思いました。
作中に登場する楽曲のひとつに「星座になれたら」という曲があります。歌詞の中に
いいな 君は みんなから愛されて「いいや 僕は ずっとひとりきりさ」
というフレーズがあります。
作詞はひとりが担当していたので、ネット上では人気者のギターヒーローだけどリアルでは友達がいないひとりのことを表しているのかなと考えましたが、誰かと何かを成し遂げることに憧れを持っていた喜多ちゃんを、私はいつの間にか重ねていました。
君と集まって星座になれたら
喜多ちゃんが歌うことでまた違った想いを感じ、胸がきゅっとなります…。
一度バンドから逃げ出したのは練習したけれど思うように演奏できなかったからだし、文化祭で勝手に出場届けを提出したのは「ひとりは本当はかっこいいんだ」ということをみんなに知って欲しかったから。そんな素直でまっすぐな喜多ちゃんに心を動かされたシーンは多かったです。
感想
ひとつひとつのストーリーは些細な出来事のように感じますが、ひとりにとっては全てが急展開で、日常がまるっと変わった瞬間の連続だったと思います。憧れだったバンドの結成、アルバイトで接客業、休日に友達とお出かけ、文化祭でのライブなど…。
ラストは「今日もバイトかー」と言って、早朝に学校までの道を歩いていくひとりのシーンで完結します。あんなに嫌がっていたバイトが、いつの間にか日常に溶け込んでいます。アニメ自体はここで幕を閉じるんだけど、まだまだひとり達の物語は続いていくんだろうな、と受け取れる終わり方に、オタク的にはなんだか心がほっとしました。未来を想像できる演出のおかげで、これからもひとりたちのことを応援しよう、と自然に思えたので。
リアルでのつながりに疲れたり、直前でやっぱり怖くて逃げたくなったり、でも周りの人の一言で勇気づけられたり。繰り返す日々のかけがえなさに、改めて気が付かされました。